ビジネス仮説の発案(アブダクション)と質的帰納、人と組織を育てるマーケティングの考察

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私は、Sarasvathy(2008)のエフェクチュエーションの原著に触れその起業行動論理をベースに、ブルーオーシャン戦略の事業発想のフレームワークを活用してクライアント企業の既存事業の拡大だけでなく新事開発をお手伝いしています。新事業開発は2010年から社員2名のプロジェクトをスタートし現在50億円の事業部に成長しています。
エフェクチュエーションもブルーオーシャン戦略の事業発想のフレームワークも、「ビジネス仮説」の生成が非常に重要な部分になりますが、その仮説生成の理論またはノウハウというものが私には先日まで明確には捉えられてはいませんせんでした。大学を出て日本マーケティング研究所(JMR)というところでの経験をもとにして私は「ビジネス仮説」を立ててきました。新規事業の展開は、事業計画ではなくビジネス仮説をベースにスタートは最小の人員と事業の仕組みではじめています。当然事業をスタートし展開していくとチャンスに繋がる局面も訪れます、それを逃さないようにさらにビジネス仮説を立て事業展開していきます。・・・・成功も課題も出てきます、必ず都度その事象の事実と原因を整理し次の展開案を立て直します、ビジネス仮説の検証と修正を繰り返しているのが実際です。これが「エフェクツエーションの動学モデル」の図ならば新しいMEANSとGOALSで「ビジネス仮説の修正立案」に当たりこれをテコの原理を使って作成し回していくスパイラル構造です。エフェクチュエーションの論理だけでは仮説立案の部分がひ弱です。

2008年に「アブダクション―仮説と発見の論理」米盛 裕二 著 の書籍は買って読んではいたのですが、「パースの記号学」の著者の本で、仮説を生み出だすためのパースの論理学の「アブダクション」の本だったな、何か人口知能の開発で話題になっていたなぐらいしか覚えていませんでした。
先日、「日本マーケティング学会」の<質的リサーチ研究会>で、京都大学で「マーケティング アブダクション KJ法の後工程としてのアブダクション、エフェクチュエーションの前工程としてのアブダクション」があるとの案内で、仮説生成のための「アブダクション」が急に気になりだしました。Deep Learningで人工知能を作る技術にも関心がありプログラミングから学びなおそうとしていることもありますが、「エフェクチュエーションの前工程としてのアブダクション」これに惹かれました。
さらには「デザイン発想ではなく、飛躍的推論に行き着くためのアブダクションについてのワークショップを行います。」Sarasvathyの師匠ハーバート・アレクサンダー・サイモン(Herbert Alexander Simon)のデザイン発想を超える「飛躍的推論」・・・・勝手な推測ですが興味をそそられました。
「デザイン発想ではなく、飛躍的推論に行き着くためのアブダクションについてのワークショップを行います。
その作業は、エフェクチュエーションの前工程として必要な飛躍的推論と位置付けています。」この説明文にすごく惹かれてしまいました。ハーバート・アレクサンダー・サイモンのいう「デザイン」と現在日本で使われているデザイナーが主役で発信している「デザイン発想」は違います、老マーケ屋の心に響きました。
予定が1つあったので参加できませんでしたが、「アブダクション―仮説と発見の論理」を引っ張り出して、再度熟読いたしました。60歳を前にした老マーケ屋が、仮説を大事に励んでいたころ「20代のころにこの本と出会っていたかった」と思いました。
私が気づいた結論は最後に書きますが非常に短いものです。ビジネス仮説の発案(アブダクション)と質的帰納、人と組織を育てるマーケティングとして、これまでのマーケ屋の私の経験を書きながら、最後に本当に短くまとめてみました。

【私の経験の部分です】
科学的分野での仮説は「ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説」といえるでしょう。
ある事象がある→それを合理的に説明するための仮説を立案→実験や観察で演繹検証→さらに広範囲に演繹検証→真理に近づく、このようなステップを科学ではとられます。
演繹検証は、前提が真実でなければなりません、結論の根拠となる前提条件が精査され信憑性が高く必然的にあるいは非常に高い確率で導かれていることが必要です。

ビジネスの世界では前提が、「真実」「必然的」というものはそうあるものではありません。
よくあるのは「7割くらいの精度で検証できればいい」・・・・ビジネスの世界では、統計分析で7割以上の精度で検証できればたいしたものです。パースの3つの帰納、「単純帰納」「量的帰納」「質的帰納」(詳しくは アブダクション―仮説と発見の論理2007/9/20米盛 裕二 著 などをお読み下さい)の「量的帰納」で統計学にもとづき70%の精度または確率での帰納ができれば上等です。Sarasvathy(2008)のエフェクチュエーションでは、コーゼーション(因果推論)に属する部分での精度と考えても良いでしょう。

こういったビジネスの分析の世界では、「仮説」がしっかりしていないと役に立たない分析結果しか出てきません、garbage in garbage outといわれています(詳しくはカスタマー・バリュー クオリティと顧客満足を高め収益につなげる ミシガン大学ビジネススクール マイケル・D.ジョンソン著を読んでみてください)。
この「カスタマー・バリュー」という本は、主成分・回帰分析(CPR)によってどの施策がどの位利益を生み出しているかを分析して世界的規模でコンサルティングしているメンバーが書いた本です。バリュー・プロフィット・チェーン―顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる(2004/12ジェームス・L. ヘスケット, レオナード・A. シュレシンジャー, W.アール サッサー)などに出てくる研究もこのような高度な解析が行われています。今では世界的にブランド戦略の大家となられたデービット・A・アーカー氏も私が20代のころお会いし社員の交換留学の話が出たころマーケティング会社を経営されておりマーケティング・リサーチ分析をされていたのでブランド分析に長けておられ、名著が生まれているのです。
このような高レベルなビジネスの世界での分析でなくても、日常のビジネス・データの分析でも、「仮説」がしっかりしていれば役に立つ分析結果が導き出せます。
「ここに問題があるだろう」「こういう分析をすれば問題がはっきりするだろう」という問題仮説、「おそらくこれ・これらが原因だろう」「こういう分析をすれば原因が分かるだろう」という原因仮説、「この施策が有効だろう・支持されるだろう」「こういう分析をすれば効果的な施策を発見できるだろう」といった対策仮説などが的確でなければなりません。

私は日本マーケティング研究所の竹山元一氏が社長をされていたエム・シー・プログラムで質的調査から事業計画・マーケティング施策のご提案をする仕事も20代のころさせていただいていました。先行事例研究や競合企業調査・流通関与者等々へデプス・インタビューを実施し、分析・解釈し提案書を作成する業務です。師匠の竹山からオープンデータや事前ヒアリングなどから「仮説をしっかり組んでやれ!」と叩き込まれました。
20代半ばから多角経営されていた上場企業の各事業部の事業部長様の作成された事業戦略書・計画書に触れ、それを実現していくためのマーケティング施策の検討に参画させていただき、展開実施に関わらせても頂き経験を積みました。「仮説をしっかり組んでやれ!」「結果を出せるよう仮説を検証し修正して新たな取り組みをしろ!」師匠の竹山から徹底して教え込まれました。
当時の日本マーケティング研究所(JMR)は利益相反しないよう1業種1社のクライアントという原則をとっていましたがグループ会社がいくつかあり、秘密保持を徹底しながらも各グループ会社の調査レポート・提案書などグループ本社のJMRが管理保管し手続きをすればそれらを閲覧することができました。
オープンデータは竹山が関連業界の紙誌を切り抜きストックする専門スタッフを置いて収集してくれていたので膨大にありました。いろいろ仮説を組むための情報がグループ内にあり大変役立ちました。特に先輩や仲間が担当しているクライアントの事業に長期に携わり、事業展開の質的検証(質的帰納)がされた役立つケースが豊富にあったことは非常に仮説を組む能力開発に役立ったと思います。1980年代のことですから今のようなネット情報社会ではなく、オープンデータを集めるのも大変でした。
顧客と逃げ客の調査データなども豊富にあり量的検証(量的帰納)の役立つケースも豊富にありました。量的検証では1980年代前半からPCを電話回線で大型コンピュータに繋いで高度な多変量解析を実施する環境も与えてもらい、当時から高度な量的検証(量的帰納)を実務で学ばせてもらいました。

【アブダクション―仮説と発見の論理】の活用すべき部分の要約です。(一部私の解釈があるかもしれませんが)
アブダクションは観察されたデータを説明するための仮説を形成する推論です。
アブダクションは最初に色々な仮説を思いつく示唆的(洞察的)段階と、それらの仮説について検討しその中から最も正しいと思われる仮説を選ぶ(あるいはその仮説のほかにもっと適切な仮説がないかどうかを考える)熟考的な推論の段階から成り立っています。

第一段階は、探索中の問題の現象について考えられうる説明をあれこれ推測し、考えられうる諸仮説を数多く出していきます。そして洞察(閃き)が働くのは主にその第一段階においてです。アブダクションの「飛躍」:仮説的飛躍(abductive leap)は、「われわれが直接観察したものとは違う種類の何ものか、そしてわれわれにとってしばしば直接には観察不可能な何ものかを仮定する」創造的想像力による推測の飛躍です。この創造的想像力による推測の飛躍によって、ある意味意外な事実が観察されると、直接観察したものとは違う種類の何ものか、直接には観察不可能な何ものかを仮定して、何が起こり得るかを仮説として発案するのです。

第二段階は、それらの思いが浮かぶ諸仮説にのりストの中から、十分熟慮して、もっとも正しいと思われる仮説を選び選択します。仮説を選ぶということは、ある仮説が実験的テストにかけるに値するものかどうかを検討し、実験的テストにかけるのに優先すべき仮設を暫定的に採択するということです。
その選ぶ基準は次の4つです。
1)もっともらしさ(plausibility):仮説は検討中の問題の現象についてもっともらしい、最も理にかなった説明を与えるものでなくてはならない。
2)検証可能性(verifiability):仮説は実験的に検証可能でなくてはならない。
3)単純性(simplicity):同じ程度の説明力を有するいくつかの仮説があるとすると、より単純な仮説を選ばなくてはならない。
4)経済性(economy):実験的にテストするのに費用や時間や思考やエネルギーが節約できる仮説を選ばなくてはならない(単純な仮説ほどこの経済性が高い傾向がありますが、必ずそうだという保証はありません)。
アブダクションの推論の形式は、たんなる思いつきの推論ではなく、ある明確な理由または根拠つまり「そのように考えるべき理由がある」、「そのように考えるのが最も理にかなっている」、「そのように考えざるを得ない」と言うふうに納得ができる合理的な理由または根拠にもとづいて、仮説を形成していきます。推測によって試行錯誤的に仮説を考え出さなければならないので、意識的に熟考的で自己修正的であるようにし、十分納得のいくもっとも理にかなった推測に到達するまで熟考に熟考を重ねなくてはならないのです。

質的帰納は、仮説を実験的にテストし検証する方法です。
科学的研究において他の種類の帰納のどれよりも一般的に有用なものです。
質的帰納は、探究者はまず発案された仮説から出発して、仮説の予測の通りのことが実際に起こるかどうか、それらの予測はどれだけ観察事実と一致するかを確かめる。そしてその結果、探究者はその仮説は正しいと言えるか、あるいは何らかの修正が必要か、それとも全く否定すべきかを判定します。
質的帰納には仮説を実験的にテストするという実証的機能のほかに自己修正的な性質があります。
質的帰納は、仮説を実験的に検証する際に「その仮説は立証されたと言えるのかどうか、あるいは立証に近づきつつあるのか、あるいはこれ以上注目するに値しないものなのか、あるいは新しい実験に照らして明確な修正が加えられ帰納的に最初からやり直さなくてはならないものなのか、あるいは真ではないけれどもしかしたぶんいくらかは真らしいところがあってこれまで進めてきた帰納をさらに続けていけばその結果よりよい仮説にいたるのに役立つようなものかどうか」を決定します。このように質的帰納は自己規制(self-regulating)・自己修正的(self-corrective)な過程でもあります。だから質的帰納を長期にわたって使い続けていけば、その長い過程のうちには帰納はそれ自体のあらゆる誤りを正しつつ、われわれを徐々に真理へと導いてくれるものです。
このようなことから質的帰納は経験から学ぶ方法だといえます。
質的帰納は本質的に自己修正的であるということが、質的帰納が正しい方法であるということを保証し、質的帰納法を正当化するのです。

アブダクションが行う観察は、説明を要する事実を仮説や理論を発案するいわば発想のための観察です。
質的帰納が行う観察は、仮説や理論の確証ないし反証を行うための実験的実証的観察です。
科学的方法には質的帰納法のほかに仮説の提案が必要であり、仮説の提案なしには質的帰納法を正しく用いることはできません。
探究は仮説によって導かれ、事実は仮説にもとづいて集められます。
事実とは事実としての意味を持つもののことであり、事実を集めるということはわれわれの関心や目的や考えにとって意味をもつ事実が選ばれ集められるということです。
事実とは単なる出来事ではなく、意味を持つ出来事であり、事実としての価値をもつ事象なのです。
ある事象が事実としての意味または価値をもつものとなるのは、われわれがその事象に着目しその事象のうち事実としての意味または価値を読み取るからであり、われわれがそれを必要かつ重要な事実として解釈し選択するからです。探究者の考えや仮説にもとづいて事実に意味を付与するのです。

【結論】
仮説を正しく用いると、問題解決や新規事業の推進など、さまざまな場面で強力なパワーを発揮しますし、ビジネスの精度やスピードもどんどん上がっていきます。
私は今「アブダクションによる仮説立案と質的帰納」がビジネスの生産性を高めるキーワードではないかと考えています。

近い将来AI(artificial intelligence:人工知能)によって仮説立案で人間を補助するようになるでしょう。しかしAIは最善の仮説をいきなり提案してくるでしょう。仮説の実行可能性についても判断しだしてくるでしょうが、なぜその仮説なのかについては、膨大な教師データと複雑な機械学習・ディープラーニングによって導き出すので、私達に理解できるような説明は付けられません。
AIには創造性はないですが、人間以上に高速で疲れることなく熟考的で自己修正的に思考(データ処理)し、自己成長し、少々優秀な人であっても考え出させないような仮説も出してくるでしょう。
このときの問題は、その仮説を使う人間でしょう。
出された仮説を使うには、ある明確な理由または根拠つまり「そのように考えるべき理由がある」、「そのように考えるのが最も理にかなっている」、「そのように考えざるを得ない」と言うふうに納得ができる合理的な理由または根拠を考え出さなければならない。

エフェクチュエーションもブルーオーシャン戦略も、尤度(ゆうど:もっともらしい)が高く・実践検証可能性が高く・明快さ分かりやすい(シンプル)・経済的な(受容可能な損失の範囲内)ビジネス仮説がなければはじまらない。
KJ法的アプローチではなく、豊富なビジネスケース・リソースから、意外な事実を注意して選び出し、創造的想像力によって、違う領域の事実も推測の飛躍によって私・私の仲間やステークホルダーを仮定して、何が起こり得るかをビジネス仮説として数多く発案できる環境を整えることが必要です。
社内ケースのビジネス仮説と質的検証を記録に残していく、業界・業種・業態に関係なく意外な事実を見つけ出し想定仮説と意外な事実としてケースをストックして行く。意外な事実は、実際に関係者に仮説を持ってインタビューし、想定仮説がマッチするのかどうかを確かめることは非常に重要でしょう。
エフェクチュエーションもブルーオーシャン戦略も、欧米のビジネス・スクールではケースを大切にし、そこからビジネス仮説を発想するカリキュラムが展開されているのだと思います。また、おそらく意識的に熟考的で自己修正的であるようにし、十分納得のいくもっとも理にかなった推測に到達するまで熟考に熟考を重ねるようカリキュラムの中で求めていることでしょう。

経営やマーケティングがプラグマティズムにもとづくなら、ビジネス仮説を発想する環境を如何に作り、実際の事業活動の中で尤度・実践検証可能性・分かりやすさ・経済性など熟考し検証に値する仮説を選び、ビジネス仮説の質的検証をさせ、ビジネスの現場で実践しながら如何に人・組織を育成して行くかが重要なテーマとなるでしょう。

今年、私はネスレ日本株式会社のCMO石橋様と日本マーケティング学界でお会いし感銘を受けました。KitKat・バリスタ・アンバサダーなどの成功例を発表されるマネージャーの方々とCMOの接し方や、CMOが直接ご発表になる社内で実施されている「イノベーション・アワード」などなから、ビジネス仮説の発案と検証による人と組織を育てるマーケティング、一つのあるべき姿を見せていただきました。
石橋様とお会いしていなければ私は、エフェクチュエーションとブルーオーシャン戦略を活用するコンサルどまりでした。これから現場で如何に人・組織を育てるお手伝いができるのか、考えながら実践してみます。

株式会社MCプロジェクト 坊池敏哉

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